toggle

会長 帯津良一

建築医学が開く新しい医学の地平

帯津良一

私たちは「場」のなかの存在である。
家庭の場、職場の場、地域社会の場、宇宙の場、虚空の場のなかに重複して存在している。
広場という場、市場という場、盛り場という場、酒場という場、修羅場にも時に応じて、存在している。
場とは物理学上の概念である。ある限られた空間に、ある物理量が連続して分布しているとき、これを場と呼んでいる。電気と磁気が分布しているから電磁場である。もちろん電磁場は目に見えないだからといって電磁場の存在を否定する者はいないだろう。ラジオやテレビがこの電磁場のおかげで機能するものであることは誰でも知っているからである。
そのほかにも重力場は在るし、素粒子の場もあるだろう私たちの体内にも、これらの場は外界の場の連続した形で存在する。そのほかにも、まだ発見されてないとはいえ、より生命に直結する物理量もあるはずである。たとえば中国医学でいう「気」である。
気の存在はまだ実証されたわけではない。しかし、大方の人は気の存在を予感しているはずだ。だから、体内に、あるいは中国医学でいうように宇宙空間に「気場」があるといってもよいかもしれない。 しかし、実証されたわけではない。あるいはほかにも別の物理量があるかもしれない。

そこで、これらの物理量をひとまとめにして、とりあえずは「生命場」と呼ぶことにしているのである生命場は当然、エネルギーを有している。これが生命(いのち)、ソウル (Soul)、霊性といってよいだろう。
そして、この生命場のエネルギーがなんらかの理由で低下したとき、これを回復すべく、その場に備わっている能力を「自然治癒力」といい、他からのはたらきかけで回復をはかることを「癒し」、自らの意志で回復ないしは向上をはかることを「養生」と呼んでいるのではないだろうか。

さらに、内なる生命場は皮膚で囲まれた閉ざされた空間ではない。皮膚は穴だらけで、環境の場とつながっている。というよりは環境の場の一部が私たちの内なる生命場を形成していると考えてもよいだろう。
内なる生命場は外なる生命場の一部なのである。だから、自惚れてはいけない。生命(いのち)も自然治癒力も私たち人間の独占物ではないのだ。環境の場のなかにも生命も在れば自然治癒力もはたらいているのである。
四十年を越えるがん治療の現場での経験のなかで実感として気づかされたことがいくつかある。
いくつかである。それほど多くはない。その数少ない収穫のなかでのいちばんは「いい場に身を置くことの出来た者ほどよく治る」ということである。

そう、いい場に身を置かなければならないのだ。いい家庭の場に、いい仲間の場に、そして、医療の場にである。
いい場にはハード面とソフトの面がある。柔道の試合と同じで、二つ合わせて一本である 家庭の場のハードはわが家である。これまでは仕事中心の生活であったので、わが家は雨露をしのげれば、それだけでよいと考えていた。
一方、ソフトは家族の間の気持ちの交流である。家族だからいい交流が成り立っているかというと決してそうではない。世の中はままならないものなのである。その交流にハードが大きな影響を及ぼしていることがわかってきた。わが家は雨露がしのげればいいというものではないのだ。

医療においても然りである。医療者の志(こころざし)を育む、わが病院が必要なのだ。
そこで建築医学なのである。
こんな簡単なことに、どうして今まで気づかなかったのだろう。
もちろん、今からでも決して遅くはない。
新しい医学の地平が、いま開かれる。

帯津良一 プロフィール

1936年に埼玉県川越市生まれる。東京大学医学部卒業。医学博士。東京大学医学部第三外科に入局し、都立駒込病院外科医長などを経て、1982年、埼玉県川越市に帯津三敬病院を設立。
西洋医学に中国医学や代替療法を取り入れ、医療の東西融合という新機軸を基に、がん患者などの治療に当たる。人間をまるごと捉えるホリスティック医学の第一人者として、日本ホリスティック医学協会会長、日本ホメオパシー医学会理事長なども務める。

著書も「代替療法はなぜ効くのか?」「健康問答」「ホリスティック養生訓」など多数あり。 その数は100冊を超える。現在も全国で講演活動を行っている。

主な著書は『癒す心、治る力』『アンドルー・ワイル博士の医食同源』
帯津良一情報